ガジェットは、未来の自分から届いた手紙だ。――そして通信は、その手紙を開くための“鍵”になる。
旅先の駅前で地図が開かない。改札を出た瞬間、行き先だけが消える。実家のこたつでZoomを開いたら、声がロボットみたいに途切れて会議が止まる。ホテルのWi-Fiは「接続済み」なのに、予約メールすら読み込まれない。
その瞬間、旅は止まる。いや、正確には「時間」と「安心」がまとめて奪われる。通信が不安定だと、移動も支払いも連絡も“全部が渋滞”になる。スマホは万能なはずなのに、急にただの板になる。
僕は元・大手メーカーで商品企画とUX設計をやっていて、独立後はスマホ/SIM/回線周りを中心に年間300製品以上の検証を続けてきた。結論として言い切れるのは、日本旅行・帰省の通信トラブルは「運」じゃなく「設計ミス」だということ。
しかも厄介なのが、原因がひとつじゃない点。混雑する駅前、電波が弱い地方、全室共有で詰まるホテルWi-Fi。どれか一つでも外すと、通信は簡単に死ぬ。だから解決策も“最強の1つ”じゃない。
この記事では、eSIM/テザリング/ホテルWi-Fiを「道具」として正しく役割分担し、通信が死なない最適解に組み直す。Apple公式のeSIM/デュアルSIM仕様など一次情報も踏まえつつ、現場で効く順に整理する。結論だけ先に言うなら、通信は1本に頼るほど死ぬ。だからこそ、分散設計が正解だ。
結論|日本旅行・帰省の通信は「1本足打法」が一番危ない

これは煽りでも理論でもない。僕自身が何度も痛い目を見てきた結論だ。回線を1本にすると、旅は本当に運ゲーになる。実際、観光地の駅前で地図が真っ白になり、改札を出た瞬間に立ち尽くしたことがある。決済が通らず、後ろに列ができたことも一度や二度じゃない。
僕は以前、大手メーカーで商品企画とUXを担当し、現在は独立してスマホ・SIM・通信機器を中心に年間300製品以上を実機で検証している。レビューというより、生活の中で“事故るかどうか”を見続けてきた。その中で、はっきり分かったことがある。通信トラブルは回線の性能差より、設計ミスで起きる。
強い回線を1本持つより、そこそこでも役割を分ける方が圧倒的に生存率が高い。これは机上の空論じゃない。旅先、帰省先、出張先で、何十回も体感してきた現実だ。
設計の鉄則は、たったひとつ。役割分担(分散)。主役を1人にしない。代役を必ず用意する。これだけで、通信トラブルは「致命傷」から「ちょっとした出来事」に変わる。精神的な安心感が、段違いだ。
| 役割 | 最適解 | 僕がそう使っている理由 |
|---|---|---|
| 常時つながる保険 | eSIM(サブ回線) | 混雑や圏外で「終わった…」となる瞬間を何度も救われた |
| 一時的に速さが必要 | テザリング | 実家やホテルで仕事を成立させる最短ルートだった |
| 補助(信用しすぎない) | ホテルWi-Fi | 使えたら助かるが、期待すると裏切られることが多い |
ここから先は、僕が実際にハマってきた失敗をもとに、なぜ通信が死ぬのか、そしてどう組み直せば死ななくなるのかを、具体的に解剖していく。
なぜ通信が死ぬ?日本旅行・帰省で多い3大パターン

まず言っておきたい。「あなたの使い方が悪い」わけじゃない。僕も同じ条件で、何度も詰んできた。原因はシンプルで、旅先や帰省先の環境は、日常とは別世界だからだ。
これまでの検証と実体験で、特に多かったのが次の3パターン。
- 混雑時間帯(昼・夕方・夜)に速度が急落する(観光地・駅・繁華街・SA/PA)
- 帰省先・地方・屋内で電波が想像以上に弱い(山間部・鉄筋・部屋の奥)
- ホテルWi-Fiが遅い/切れる/つながらない(全員で回線を奪い合っている)
ホテルWi-Fiが遅いのは、あなたのせいじゃない
これは声を大にして言いたい。ホテルWi-Fiが遅いのは、本当にあなたのせいじゃない。僕自身、全国のビジネスホテルや温泉宿で何度も検証してきたが、Wi-Fiの質は宿によって天と地ほど差がある。
多くのホテルは全室共有回線。夜になると動画視聴が集中し、帯域は一気に詰まる。設備が古ければ、部屋の奥では電波が届かないことも普通にある。だから、「接続できた=安心」ではない。
僕が辿り着いた現実的な答えは二択だ。有線LANが使えるなら迷わず有線。それが無理なら、最初から自前回線(eSIM/テザリング)に切り替える前提で動く。改善を祈るより、即撤退できる設計の方が、結果的に時間もメンタルも守れる。
eSIMは必要?|国内eSIMで「保険」を持つという考え方

eSIMは、物理SIMなしで通信プランを追加できる仕組みだ。仕様や設定はメーカーの一次情報が最も信頼できるが、僕にとってeSIMはスペック以上に「安心感」をくれた存在でもある。
正直に言うと、最初は僕も「日本国内でeSIMなんて要る?」と思っていた。でも、帰省先でメイン回線が不安定になり、eSIMに切り替えた瞬間に全部が解決した経験をしてから考えが変わった。
ポイントは、主回線がある人ほど、サブ回線の価値が跳ね上がるという事実だ。通信が死ぬ人の多くは、例外なく“1本足打法”。eSIMはその依存を断ち切るための保険だ。使わずに帰れる旅も多い。でも、一度でも救われると手放せなくなる。
こんな人は国内eSIMが刺さる(日本旅行/帰省)
- 格安SIMで、昼や夕方に速度低下を体感している
- 帰省先が地方で「圏外になったことがある」
- 旅行中も仕事を止められない(Zoom/VPN)
- 地図・チケット・決済が止まると一気に詰む
デュアルSIM運用の基本(iPhone/Android)
iPhoneのデュアルSIM運用は、使いこなすと世界が変わる。番号はそのまま、データ通信だけ別回線に逃がす。この“逃げ道”があるだけで、旅先のストレスは激減する。僕は混雑を感じたら、迷わず副回線に切り替える。
- 主回線:通話・SMS(生活の基盤)
- 副回線(eSIM):旅と帰省の命綱
- 怪しい場所では即切り替えが正解
eSIMの注意点(機種変更・再発行)
もちろん万能ではない。eSIMは機種変更や故障時に再設定が必要になることがある。僕も一度、移行を後回しにして焦った経験がある。だからこそ、旅の直前に初設定をするのは絶対におすすめしない。
帰省テザリングはアリ?|速度・データ消費・バッテリーの現実

これは評論じゃない。何度も帰省でやらかし、何度も救われてきた当事者としての結論だ。帰省テザリングは「アリ」。ただし、万能だと思った瞬間に裏切られる。
年末年始、お盆、法事。実家に帰るたびに、「Wi-Fiあるよ」と言われて行ってみたら、夜は動画が一切再生されないレベルで遅い。結局、自分のスマホをテザリングしてPCをつなぐ──この流れを、僕は何十回もやってきた。
正直に言うと、会議1本、作業30分〜1時間くらいなら、テザリングはめちゃくちゃ強い。実家の和室で、窓際にスマホを置いて、Zoomを無事に終えたときの安堵感は今でも覚えている。あれは「助かった」というより、生き延びたに近い。
ただし、調子に乗ると必ず痛い目を見る。2時間を超えたあたりから、バッテリーが目に見えて減り、端末が熱を持ち、通信が不安定になる。会議中に音声が途切れ、「あ、これヤバいやつだ」と背中が冷えた経験は一度や二度じゃない。これは誇張じゃなく、実測と体感の積み重ねだ。
Zoom・仕事で使うなら:テザリングを安定させるコツ
「テザリングで仕事できる?」と聞かれるたびに、僕はこう答えている。やり方を間違えなければ、できる。でも雑にやると死ぬ。
- スマホは必ず窓際。実家の奥の部屋は、電波的にほぼ洞窟
- 給電しながら使う。電池残量30%を切った瞬間から不安定になる
- 布団の上・こたつの中は即アウト。発熱で速度が落ちる
- 「音が一瞬途切れた」と感じたら、eSIMに切り替えて即分散
この最後の「分散」ができるようになってから、会議中に詰んだことはほぼなくなった。テザリング一本で粘らない。これは、失敗を重ねた人間ほど身に染みる教訓だ。
テザリングでバッテリーが死ぬ問題の対策
テザリング最大の敵は、通信品質じゃない。バッテリー切れだ。これは何度もやらかした。
「あと20%あるから大丈夫だろ」と思って会議を始め、30分後に強制終了。あの気まずさは二度と味わいたくない。だから今は、準備をやりすぎるくらいでちょうどいいと考えている。
- モバイルバッテリーは20,000mAh級を常備(PC接続前提)
- 省電力モードは最初からON
- 不要なアプリは事前に通信オフ・終了
ここをケチると、通信以前に端末が落ちる。これは理屈じゃなく、何度も現場で見てきた失敗だ。
ホテルWi-Fiは信用しすぎるな|現場で効く対策だけ

出張・旅行で全国のホテルに泊まってきたが、正直に言う。ホテルWi-Fiに期待していいのは、期待しない覚悟がある人だけだ。
「接続済み」の表示を見て安心し、いざ仕事を始めた瞬間に何も読み込まれない。夜10時、動画視聴が集中した時間帯に、完全に通信が死ぬ。このパターン、何度も体験した。
ホテルWi-Fiは“補助”。使えたら助かるが、頼ると痛い目を見る。
このくらい割り切った瞬間、精神的にめちゃくちゃ楽になった。
チェックイン前に見るべき「Wi-Fi地雷サイン」
- 案内に「混雑時は速度低下」の注意書きがある
- 口コミに「夜は使い物にならない」が並ぶ
- ロビーは速いが、部屋だと極端に遅い
有線LANが使えるホテルで救われたこともある。ただし、必ず改善するわけじゃない。だからこそ、最初から自前回線を持っておくという発想が、結果的に一番安定する。
保存版|旅行・帰省で通信が切れない“最強構成テンプレ”
何度も失敗して、やっと落ち着いた形がこれだ。通信トラブルに強い人ほど、必ず回線を分散している。これは理論じゃなく、実体験の集積。
| 優先度 | 手段 | 使うシーン |
|---|---|---|
| ① | 普段の回線(主回線) | 基本の通信。問題なければ最後までこれ |
| ② | eSIM(サブ回線) | 混雑・圏外・不安定時の命綱 |
| ③ | テザリング | 仕事・PC接続の切り札 |
| ④ | ホテルWi-Fi | 補助。使えたらラッキー |
読者タイプ別おすすめ(日本旅行/帰省)

- 観光メイン:eSIMは最低限でOK。安心を買う感覚
- 帰省×仕事:eSIM+テザリング併用が現実解
- 出張:安定最優先。ホテルWi-Fiは最初から計算外
出発前チェックリスト|これだけで通信事故は激減する
- eSIMは必ず事前に開通テスト
- デュアルSIMのデータ回線設定を確認
- テザリングのON/OFF手順を把握
- 充電器・ケーブル・モバイルバッテリーを準備
- ホテルWi-Fiがダメな時の逃げ道を決めておく
FAQ|日本旅行・帰省の通信でよくある質問

ここは、飲み会や移動中に友人から実際に投げられた質問に、その場で答えてきた内容をまとめたものだ。理屈よりも先に、僕が体験して「これは効いた/これは地雷だった」という話をベースにしている。
Q1. 日本旅行でもeSIMって本当に必要?
A. 友人にもよく聞かれるけど、僕の答えはだいたいこうだ。「全員じゃない。でも、刺さる人には刺さりすぎる」。
実際、僕の周りでeSIMを入れて助かったのはこんな人。
- 「昼になると遅くなるんだよね」と嘆いてた格安SIM勢
- 実家が地方で「たまに圏外になる」と言ってた友人
- 旅行中もSlackやZoomが鳴る仕事切れない組
- 地図・決済・チケットが止まると一気に詰むタイプ
僕自身、日本だから大丈夫だろうと主回線だけで行き、観光地の駅前で地図が開かず立ち尽くしたことがある。あのときの「詰んだ感」を知ってから、eSIMは“使わない日もある保険”として常備するようになった。主回線が安定している人ほど、サブ回線のありがたみは強く出る。
Q2. 帰省テザリングの速度って、正直どう?
A. これもよく聞かれる。僕の答えはいつも同じで、「当たり外れはある。でも短時間なら十分戦える」。
実家の環境次第だけど、会議1本、作業30〜60分ならテザリングは本当に頼れる。実際、和室の窓際にスマホを置いてZoomを完走できた経験は何度もある。ただし、2時間を超えたあたりからバッテリー・発熱・速度制限が一気に現実味を帯びてくる。
だから僕は、テザリングを「常用回線」じゃなく「切り札」として使ってる。これを勘違いすると評価が真逆になる。
Q3. テザリングって、実際どれくらいギガ減る?
A. これ、友人が一番ショックを受けるポイント。使い方で別物になる。
- Web/メール:思ったより減らない。「あれ?まだ余裕あるな」という感じ
- Zoom会議:気づいたら削られてる。油断すると危険
- 動画視聴:冗談みたいな速度で溶ける
僕がよく勧めているのは、「会議がある日だけeSIMを厚めにしておく」という分担。通信は節約よりも、詰まないことが最優先。ギガを気にしながら話す会議ほど、集中力を削られるものはない。
Q4. ホテルWi-Fiが遅いとき、どうにかならない?
A. これは申し訳ないけど、友人にも「魔法はない」と正直に言ってる。
僕も「接続済み」の表示を信じて作業を始め、夜になって突然何も読み込まれなくなる、という裏切りを何度も食らった。対策として現実的なのはこの3つだけ。
- 有線LANが使えるなら一度は試す(改善することもある)
- 混雑する夜の時間帯を避ける
- ダメなら即、自前回線(eSIM/テザリング)に逃げる
だから僕のスタンスは一貫している。ホテルWi-Fiは主役にしない。補助だと思えば、裏切られてもダメージは小さい。
Q5. eSIMの設定、正直ちょっと怖いんだけど…
A. 分かる。僕も最初はそうだった。そして一度、現地でやろうとして焦った。
空港や駅で「繋がらない…」と汗をかくと、旅のテンションは一気に下がる。だから今は、友人にも必ずこう言ってる。
- 出発の2〜3日前に入れる
- 実際に通信できるか確認する
- 主回線⇄副回線の切替も一度やってみる
ここまでやっておけば、当日はほぼ勝ち。念のため、設定できないときの手順が載っている公式ページをブックマークしておくと、精神的な保険にもなる。
まとめ|通信は“旅の裏方”だが、主役を左右する

通信は、問題が起きない限り意識しない。旅先で写真を撮り、地図を開き、支払いを済ませ、家族に連絡する。その一つひとつが、何の疑いもなく「動く前提」になっている。
でも僕は、何度もその前提が崩れる瞬間を味わってきた。
駅前で地図が真っ白になり、改札を出たまま立ち尽くしたこと。
実家でのオンライン会議が固まり、画面の向こうで空気が凍ったこと。
ホテルで「接続済み」を信じて作業を始め、夜になって一文字も読み込まれなくなったこと。
通信が切れた瞬間に起きるのは、単なる不便じゃない。
予定がズレ、不安が増え、判断が遅れ、気持ちまで持っていかれる。幸福度が下がるというより、旅の主導権を一気に奪われる感覚に近い。
メーカー時代にUX設計をやり、独立してからは何百もの通信環境を実地で試してきた。そこで確信したのは、通信トラブルの大半は「回線が弱いから」じゃない。備えていなかったから起きる、という事実だ。
だから僕は、体験してきた人間として何度でもこう言う。
通信は“回線”じゃない。安心のインフラだ。
日本旅行でも帰省でも、考え方は変わらない。eSIMで「使わずに済めばそれでいい保険」を持ち、テザリングで「今この瞬間の仕事」を成立させ、ホテルWi-Fiは補助として割り切る。この役割分担をするようになってから、僕は旅先で通信に振り回されることがほとんどなくなった。
通信は主役じゃない。だけど、主役が安心して動けるかどうかを決める土台だ。旅先で焦らない人、仕事を止めない人ほど、この土台を出発前に整えている。
この記事が、あなたの次の旅行や帰省で「あ、今回は大丈夫だな」と思える時間を少しでも増やせたなら、書いた意味はあったと思っている。旅は、つながってこそ自由になる。
参考情報(出典)
※本記事は、eSIM/デュアルSIMの仕様や設定についてはApple公式サポート、eSIMの基礎解説はケータイWatch(Impress Watch)、ホテルWi-Fiの遅さと改善策についてはINTERNET Watch(Impress Watch)の検証記事を参照しています。通信速度や安定性は、利用場所の電波状況・混雑・端末・契約プラン・ホテル設備などで変動するため、記事内の「最強構成」は通信断の確率を下げるための一般的な設計指針としてご活用ください。
