朝の通勤電車で、スマホを何回開いただろう。通知に反応し、目的もないまま画面をスクロールし、気づけば駅に着いている。
この「スマホを開く」という行為は、あまりにも日常に溶け込みすぎていて、疑問を持たれることがない。でも僕は、ガジェットを仕事にして20年以上、この“何気ない動作”こそが、現代人の時間と集中力を最も静かに奪っている原因だと感じてきた。
大手メーカーでUX設計に携わり、独立後は年間300製品以上のデバイスを実機で検証してきた。その中で、正直に言って「これは生活の使い方そのものを変える」と確信したプロダクトは多くない。
スマートグラスは、その数少ない例外だった。
誤解してほしくない。これは「スマホの次の主役」なんて大仰な話じゃない。スマートグラスは、スマホを置き換えるためのデバイスではない。
スマホを取り出さなくていい。画面を開かなくていい。その“数秒”を、1日の中から何十回も取り戻す。
そのために設計された、極めて実用的なメガネだ。
2025年、スマートグラスはようやく「未来のガジェット」から降りてきて、日常の入口に立ち始めた。この記事では、スマートグラスとは何か、何ができて、どう見えるのか、そしてなぜスマホを開く回数が減るのかを、体験と構造の両面から、できるだけ噛み砕いて解説していく。
スマートグラスとは何か?【2025年版・本質から理解する定義】

スマートグラスとは、メガネという“いちばん日常”の道具に、情報とAIの入口を貼り付けたウェアラブル端末だ。
ここ、めちゃくちゃ大事なので先に言い切る。
スマートグラスは「次世代のスマホ」じゃない。
そして「未来の玩具」でもない。
スマートグラスの正体は、もっと地味で、もっと強い。
人が情報を取りに行く“動作そのもの”を、設計から変える道具だ。
僕はメーカー側で商品企画とUX設計をやってきたし、独立後は年間300台以上のガジェットをテストしてきた。
だから断言できるんだけど、世の中の多くのデバイスって「機能が増えました」で終わるんだよ。便利だけど、生活の骨格は変わらない。
でもスマートグラスは違う。
UIの前提条件を揺さぶる。しかも、かなり本気で。
2025年現在、スマートグラスは技術的にも思想的にも、はっきり2つの系統に分かれている。ここを理解すると、一気に視界がクリアになる。
① ディスプレイあり(ARグラス系)|「目の前に画面が来る」って、こういうことだ

- レンズ内に情報や映像を重ねて表示する
- ナビ、字幕、仮想モニターなど“視覚の拡張”に強い
- 体験の核は、目の前に“画面が存在する”こと
外から見ればサングラス。内側ではディスプレイ。
この二重構造のUIが、地味に、でも確実に生活を変える。
たとえば「移動しながら地図を確認する」「作業しながら資料をチラ見する」。
スマホだと一回“手”と“目線”を取られるけど、ARグラス系はそこをスッと横取りする。この“横取り感”が、想像以上に気持ちいい。
② ディスプレイなし(AIグラス系)|画面を見ないのに、前に進む

- 見た目も視界も、ほぼ普通のメガネ
- 主役はマイク・スピーカー・カメラ
- AIと“会話する”ための身体拡張デバイス
こっちは思想が面白い。
通知、通話、音楽、要点把握。ぜんぶ「画面を見る前」で止める設計なんだ。
スマホって、触った瞬間に「関係ない情報」が混ざるじゃない?
AIグラス系は、そこを混ぜないまま処理しようとしてくる。
……これ、集中力を守りたい人ほど刺さるやつ。
スマートグラスは一枚岩ではない。
「視界を拡張する道具」と「行動を軽くする道具」が存在する。
なぜ2025年、スマホを開く回数が減るのか

ここからが本題。
スマートグラスが面白いのは「できること」じゃない。スマホを開く“回数”が減ることだ。
冷静に分解すると、僕らがスマホを開く理由は驚くほど少ない。
- 通知を確認するため
- 調べる・ナビを見る・翻訳するため
- 画面で作業するため
スマートグラスは、この3つを正面から奪いにいかない。
むしろ上手いのはここ。
“その一歩手前”で処理することで、結果的にスマホを開かせなくする。
通知|「確認する動作」を消す(これがいちばん効く)

スマホ通知の問題は、情報量じゃない。
ポケットから取り出す → 画面を見るという動作コストだ。
そして、もっと厄介なのは“ついで”。
通知を見たついでに、SNSを開く。ニュースを開く。なんなら関係ないことを調べ始める。
ここで1日が細切れになる。
スマートグラスは、音や一瞬の視界提示で完結する。
つまり、“ついでの沼”に落ちる前に止めてくれるんだ。
通知が集中を壊していたわけじゃない。
通知を確認するための動作が、集中を分断していた。
ナビ・翻訳|視線を落とさない。これ、想像より価値がある

移動中にスマホを見る行為は、思考も視界も一度リセットさせる。
歩く→止まる→見る→また歩く。これ、地味にストレスだ。
ディスプレイ系スマートグラスは、「今いる世界の上に情報を重ねる」。
止まらず、迷わず、視線を切らずに済む。
ここでワクワクするのは、ナビや翻訳が“機能”じゃなくて習慣そのものになる未来。
「迷ったらスマホ」じゃなくて、迷う前に情報が出る世界に近づく。
作業|画面を“持ち歩く”という再設計(仕事が速くなる理由はここ)

最近のスマートグラスは、明確に仕事道具として成立し始めている。
- 移動中の資料確認
- カフェでの仮想マルチディスプレイ
- 出張先での軽作業
僕がこのジャンルを評価するときに見るのは「解像度」より、迷いの減り方だ。
画面が増えると、脳の“切り替え回数”が減る。ここがでかい。
画面が増えるから効率が上がるんじゃない。
「次に何をするか」で迷わなくなる。
スマートグラスは、できることを増やす道具ではない。
無意識にやっていた“余計な動作”を削る道具だ。
スマートグラスで「できること」を生活に翻訳する

スペック表だけを見ると多機能に見える。
でも僕が読者に一番伝えたいのはここ。
大事なのは「何ができるか」じゃない。
あなたの生活のどの摩擦が、どの順番で消えるかだ。
通知・通話・音楽|「探す」という行為が消える(これ、幸福度が上がる)
- 通知を“耳”で受け取る
- 音楽を聴きながら周囲の音も保つ
- スマホを探さない
スマホって「便利」なんだけど、同時に“召喚装置”でもある。
取り出した瞬間、別世界に引っ張られる。
スマートグラスは、その召喚を最小限に抑える。
速く返せることが価値じゃない。
中断されずに済むことが価値だ。
ナビ・翻訳・字幕|安全性はUXの一部(便利より先に安心が来る)
視線を落とさないことは、効率ではなく安全と安心の話だ。
「スマホを見ながら歩く」から卒業できるだけで、生活のストレスは確実に減る。
モニター代わり|「場所」に縛られない作業(働き方が軽くなる)
一度、メガネが仕事道具になると、
「作業場所」という概念が薄れる。
これが“便利”じゃなくて“自由”に感じる瞬間がある。
テレプロンプター・会話支援|目立たない進化(だからこそ定着する)
2025年のトレンドは派手さではない。
生活に溶ける“静かな支援”だ。
目立たない進化ほど、定着する。
スマートグラスの「見え方」はどう違う?

不安が多いのは当然。ここ、ちゃんと整理しておく。
でも結論はシンプルだ。
スマートグラスの見え方は、用途設計によってまったく異なる。
ディスプレイあり
HUD的表示。常時ではなく、必要なときだけ現れる。
“視界が埋まる”というより、必要な情報がスッと差し込まれる感覚に近い。
ディスプレイなし
視界は変わらない。変わるのは行動のテンポだ。
「スマホを見ようかな」と思った瞬間が、丸ごと消えることがある。
不安への答え(ここは盛らずに現実)
- 酔う?:用途次第。動画中心だと疲れる人はいる。だから“目的”が大事。
- 目は悪くなる?:距離設計と休憩を守れば問題は出にくい。長時間連続使用は避けたい。
- 外から見える?:基本的に本人のみ。周囲の人への配慮は別途必要。
不安の多くは、過去の失敗の残像だ。
でも“使い方の設計”を間違えると、今でも普通に疲れる。だからこそ、選び方が重要。
それでも「いらない」と言われる理由

事実として、スマートグラスは一度つまずいている。
ここを無視して「未来!」って煽る記事、僕は信用しない。
過去に流行らなかった理由
- 価格と体験が釣り合っていなかった
- 何の道具か伝わらなかった
- 生活から浮いていた
要するに、“誰のどんな時間を取り戻す道具か”が曖昧だったんだ。
2025年が違う理由(ここがワクワクの核心)

- AI前提の設計=「使い道」をAIが支える
- 音声UIの成熟=画面に頼らない導線が成立
- 「普通」に寄せたデザイン=生活に溶ける準備が整った
流行らなかった理由が消えたとき、
道具は“静かに”定着する。
そして気づいたら、戻れない。
スマートグラスは、どんな人に向いているのか

全員に必要なわけじゃない。
でもハマる人には、戻れない体験になる。ここは断言できる。
向いている人(当てはまったら、かなり相性いい)
- 通知疲れしている人
- 移動時間を有効に使いたい人
- 思考を中断されたくない人
共通点はひとつ。
「スマホに時間を吸われてる自覚」がある人だ。
向いていない人(ここに当てはまるなら、今は保留でOK)
- 万能デバイスを求める人
- スマホ操作に不満がない人
スマートグラスは、
便利を足す道具ではない。習慣を削る道具だ。
2025年以降、スマートグラスはどう進化する?

これからの進化は派手じゃない。
でも、生活への浸透は確実に進む。
- AIが常にそばにいる(“呼び出す”ではなく“いる”)
- スマホは母艦、グラスは入口
- 操作より意図が重視される
もしAppleが本格参入すれば、この思想は一気に一般化するだろう。
Appleが得意なのは、技術を“道具”ではなく習慣に変えることだから。
未来の道具は、派手に登場しない。
気づいたら生活に溶けていて、気づいたら戻れなくなっている。
よくある質問(FAQ)

ここからは、レビュー記事というより完全に「友人からよく聞かれる質問」だと思ってほしい。
飲み会とか、LINEとか、仕事帰りの立ち話で、実際に何度も聞かれたやつ。
メーカー側でUXを作ってきた立場と、独立後に何百台もガジェットを触ってきた人間として、
期待を煽らず、でも夢は削らず、正直に答える。
Q. スマートグラスって結局、何ができるの?
A. これ、一番聞かれる。
正直に言うと、機能だけ並べたら「通知・通話・音楽・ナビ・翻訳・画面表示」って答えになる。
でもね、それを聞きたいわけじゃないんだよね、たぶん。
僕がいつも言うのはこれ。
「スマホを開く前に用事が終わる瞬間が増える」。
たとえば通知を確認するだけなのに、
ポケットから出して → ロック解除して → ついでにSNS見て…って流れ、心当たりあるでしょ。
スマートグラスは、その“ついで地獄”に入る前で止めてくれる。
派手じゃないけど、これが一番効く。
Q. 見え方は普通のメガネと違う?
A. ここ、混乱しがちだから友達には必ず整理して話す。
違うのは「スマートグラスかどうか」じゃなくて、「どのタイプか」。
- ディスプレイあり:視界に情報が重なる。HUDっぽい感じ。ずっと出っぱなしじゃなくて、必要なときだけ出る。
- ディスプレイなし:見え方はほぼ普通のメガネ。変わるのは「聞こえ方」と「操作のテンポ」。
ここを決めずに買うと、「思ってたのと違う」になりやすい。
だから僕はいつも、「画面が欲しい? それとも声と音だけでいい?」って聞く。
Q. スマホはいらなくなる?
A. これはハッキリ言う。ならない。
でも、ここでガッカリする必要はない。
僕の中での整理はこう。
スマホ=母艦/スマートグラス=入口。
スマートグラスは、スマホを倒す存在じゃない。
スマホを触らなくていい場面を増やすための“手前で止める装置”。
この感覚を持てる人ほど、使い方がうまくなるし、満足度も高い。
Q. 2025年に買う価値はある?
A. これもよく聞かれるから、判断基準を一個だけ渡してる。
「1日の中で、スマホを開かされてる感覚があるか?」
- 通知で集中が切れる
- 移動中、地図や翻訳で何度も立ち止まる
- 作業中、画面を行ったり来たりして迷う
これに「あるある」って思ったなら、2025年は十分に“あり”。
逆に、スマホ操作に特に不満がないなら、無理に今じゃなくてもいい。
スマートグラスって、全員に必要な道具じゃない。
でも必要な人には、かなり深く刺さる。
友人にいつも言う結論:
スマートグラスは「便利を足すガジェット」じゃない。
無意識でやってた動作を削って、時間と集中を取り戻すための道具だ。
まとめ|スマートグラスとは、結局「何」だったのか(具体的に言うとこう)

ここまで読んでくれたなら、もう薄々感じていると思う。
スマートグラスは、キラキラした未来ガジェットでも、スマホを倒すヒーローでもない。
でも僕は、メーカーでUXを作ってきた当事者として、そしてレビューで“生活の変化”を見てきた当事者として、久しぶりにこう思った。
「これは生活の“操作”が変わる。つまり、時間の奪われ方が変わる」って。
- スマートグラスはスマホを置き換えるためのデバイスじゃない
- スマートグラスはスマホを開かなくて済む“余白”を増やすデバイス
- 2025年は、それが「未来の話」から現実の入口に降りてくる年
じゃあ、その“余白”って具体的に何なのか。
ここからは、僕が友人に説明するときの言い方でいく。起きる変化は、この5つ。
① 「通知の確認」が“スマホを開く儀式”じゃなくなる
スマホの通知って、内容そのものよりも確認の手順が重い。
- ポケット/バッグから探す
- 取り出す
- ロック解除
- 通知を見る
- ……気づいたら別アプリへ
スマートグラスが効くのは、このうち「探す」「解除する」「ついで地獄」をまとめて削れるから。
通知は“見る”というより、必要なものだけを“受け取る”に近づく。
僕の感覚だと、ここが最初のブレイクスルー。
「通知を処理したのに、集中が切れてない」が起きる。
② 「調べる」が“手を止める行為”じゃなくなる
スマホで調べると、必ず手が止まる。視線も落ちる。思考も途切れる。
スマートグラスが目指しているのは、調べる行為を“作業の流れの中”に戻すこと。
たとえば友人との会話で店名が出たとき。
スマホだと、その瞬間に“会話の空気”が一度止まる。
でもグラスなら、会話を切らずに補助情報だけ拾う方向に寄っていく。
③ 「移動中のナビ」が“立ち止まるイベント”じゃなくなる
駅でよくあるやつ。
「どっちの出口だっけ?」→スマホを見る→人の流れが怖い→端に寄る→また歩く。
ディスプレイ系のスマートグラスは、このストレスを“視線を落とさない”で解決しにくる。
これ、効率の話じゃない。安心感の話。
スマホナビは「確認」。
グラスのナビは「誘導」に近い。ここが体験の差になる。
④ 「作業の切り替え」が“迷い”として発生しにくくなる
仕事や作業の疲れって、タスク量より切り替え回数で増える。
(これはUX設計の現場でも、ずっと議論になるポイントだ)
スマートグラスの“モニター代わり”が刺さる人は、だいたいここ。
「画面が増える」のが気持ちいいんじゃなくて、次に何を開くか迷わないのが気持ちいい。
- 資料を見ながらメモ
- チャットを確認しながら作業
- 参照画面を閉じずに進める
結果として、スマホ(やPC)の“行ったり来たり”が減る。
⑤ 「スマホを触ってしまう自分」を責めなくてよくなる
これ、地味だけど一番好きな変化。
スマホって便利すぎて、触ってしまうのは“意志の弱さ”じゃない。設計の勝ちなんだ。
スマートグラスは、その設計を逆方向に使う。
触らなくて済む導線を増やして、“触らない自分”が自然になる。
僕がワクワクするのはここ。
スマートグラスは「新しい機能」じゃなく、新しい習慣を連れてくる可能性がある。
結局、スマートグラスは「何」なのか?(一言で)
スマートグラスは、世界を一変させる道具じゃない。
でも「スマホを開かなくてよかった」を1日に何回も作る道具だ。
その小さな差が積み重なると、1日の終わりにこうなる。
「疲れた」の中身が、“情報量”じゃなく“切り替え疲れ”だったって気づく。
ガジェットは、未来の自分から届いた手紙だ。
スマートグラスは、その封筒をそっと開けるための道具。
もし今、あなたが
「気づいたらスマホを触っている」とか
「集中したいのに、すぐ途切れる」って感覚を持っているなら、
スマートグラスは、今すぐ買うかどうかは別として、
“次の選択肢”として頭に入れておく価値があると僕は本気で思ってる。
未来は派手に来ない。
でもこういう道具から、静かに始まる。
情報ソース(参考)
- ITmedia Mobile:新スマートグラス「XREAL One」は激変
- AV Watch(Impress):Google、AIグラスを2026年発売へ
- Impress Watch:Android XR本格展開(ナビ/翻訳表示など)
- ITmedia Mobile:スマートグラス「Even G2」発売
- Meta公式:AIグラス v21アップデート
※本記事の内容は執筆時点の公開情報をもとに整理しています。スマートグラスの機能・仕様・対応状況はモデルやソフトウェアアップデートで変わる場合があります。運転中や公共空間での使用は、各国・地域の法令および施設のルールに従ってください。

