深夜2時。外は激しい雨で、風が窓を叩きつけていた。
その瞬間、家中の明かりがふっと途切れ、音のない闇が落ちた。
停電でWi-Fiもルーターも一気に落ち、手元に残ったのは一台のスマホだけ。
画面を手探りで点けると、バッテリー残量は──わずか12%。
「このままスマホの電池が切れたら、災害情報も地震速報も見られない……」
停電でスマホの充電ができない、ネット回線も不安定──
それがどれだけ心細いか。
メーカー時代に停電テストや通信断、基地局障害の検証を何百回と繰り返してきた僕でさえ、
頭ではわかっていたつもりなのに、
自宅でその瞬間を迎えたとき、手の震えは止められなかった。
ただ、一つだけ希望があった。
僕の家には、これまで積み上げてきた知識と経験をもとに、
「災害でもスマホが死なない仕組み」をあらかじめ組み込んでいたからだ。
モバイルバッテリーでの電源確保。
別キャリアの格安SIMによる予備回線。
テザリングで家族をつなぐ非常用Wi-Fi。
そしてオフライン地図──この電源・通信・地図の3つさえ守れれば、
停電や通信障害は、ただの“どうにもならないトラブル”ではなく、
“対処できる出来事”に変わる。
この記事では、メーカーでのUX設計・防災向け機器の災害試験・
年間300製品以上の実機レビューで得た知見をすべて開き、
モバイルバッテリー・格安SIM・テザリング・オフライン地図をフル活用して、
停電でもスマホが途切れない防災スマホ環境を、あなたの家でも今日から再現する方法
を徹底的に解説する。
災害でスマホが“真っ先に追い込まれる理由”

まず、これだけは最初に正直に伝えたい。
災害時、いちばん最初に限界へ追い込まれるデバイスはスマホだ、ということだ。
メーカー時代、僕は何度も停電試験・通信断試験・基地局障害のシミュレーションを回してきた。
実験室の中で、画面が一つ、また一つと沈黙していく様子を何度も見てきたけれど、
そのたびに心の中で「これは単なる機械の話じゃない」と感じていた。
「スマホが生きている時間=人が判断できる時間」。
これは数字の話ではなく、現場で痛感し続けてきた“実感”だ。
充電が尽きた瞬間、情報も地図も連絡も、ぜんぶ一気に手のひらからこぼれ落ちる。
① 停電で真っ先に落ちるのは「家のWi-Fi」
停電が起きた瞬間に最初に沈黙するのは、照明でもテレビでもない。
Wi-FiルーターとONU(光回線終端装置)だ。
どちらも外部電源がなければ1秒たりとも動けない構造で、
僕がメーカーで担当していた停電テストでも、“生き残るルーター”なんて一台もなかった。
スイッチを落とした瞬間、Wi-Fiのランプが一斉に消える光景は、何度見てもゾッとする。
つまり、停電が発生した瞬間、自宅のWi-Fiの生存率は実質0%だと覚えておいてほしい。
Wi-Fiが落ちるだけで、ニュース、SNS、検索、地図、連絡──
僕たちの「安心を支える情報網」が一気に崩れ落ちる。
個人的には、これを“情報の崖崩れ”と呼んでいる。
上流が止まると、下流にいる僕たちが一瞬で情報難民になってしまうからだ。
② モバイル通信も“不安定化”する理由
「Wi-Fiが落ちても4G/5Gがあるから大丈夫でしょ?」
──そう言われるたびに、僕は心の中で「気持ちはわかるけど、それはちょっと楽観的すぎる」と思ってしまう。
なぜなら、実際の災害現場ではその前提が簡単に裏切られる瞬間を、何度も見てきたからだ。
災害時にモバイル通信が弱り切る理由
- 基地局の非常用バッテリーが数時間で尽きる(僕もログで何度も確認してきた現実)
- 周辺住民が一斉にアクセスし、“通信渋滞”が発生する
- 浸水・停電・損傷で、一部基地局が物理的に停止する
これは机上の空論ではなく、総務省や自治体が出している災害レポートでも繰り返し指摘されている。
そして僕自身、実験室のシミュレーションだけでなく、実際の大規模障害のログを追いかける中で、
「ああ、本当にWi-Fiもダメでモバイル通信も不安定なんだ」と実感させられ続けてきた。
Wi-Fiもダメ、モバイル通信も不安定──それが、災害時の“ふつうの通信環境”だ。
ここをまず冷静に受け止めておくことが、準備のスタートラインになる。
③ 地図アプリが“白紙”になる理由
GoogleマップやYahoo!マップは、平常時には本当に頼れる相棒だ。
だけど、地図データをスマホに保存していない限り、通信が途絶えた瞬間にその相棒は“無言”になる。
GPSで位置だけはわかっているのに、地図そのものが表示されない。
「今どこにいて、どこへ向かえば安全なのか」が見えなくなる、あの感覚は一度味わうと忘れられない。
僕も自宅で疑似停電をして、あえて通信を切った状態で帰宅ルートを歩いてみたことがある。
いつも見慣れた景色なのに、「もし街灯が全部消えていたら」と想像した瞬間、
“視界ゼロで歩く怖さ”が身体の奥からじわっと湧き上がってきた。
避難ルートが読めない。
危険エリアも把握できない。
この状態で冷静でいられる人は、そう多くないはずだ。
だからこそ僕は、どんな家庭でもまずはスマホを守る設計を入れるべきだと、かなり強い口調で伝えたい。
それを支えるのが、このあと解説していく
「電源・通信・設定」という3本柱の防災デザインだ。
ここさえ押さえておけば、「突然の停電」が「想定内のトラブル」に変わる。
次の章では、その中でも土台中の土台になる“電源戦略”から話を進めよう。
第一の柱:電源戦略 ― スマホの“生存時間”を最大化する
災害時、スマホがまず失うもの──それは「電気」だ。
どれだけ高性能なスマホでも、電源が尽きた瞬間に“ただの黒い板”になる。
言い換えれば、電源さえ守れれば、情報も地図も連絡も丸ごと守れるということでもある。
僕はこの発想を“電源ファーストの防災”と呼んでいる。
メーカー時代、災害テスト用のバッテリーベンチを回しながら、
充電速度や消費電力のログをひたすら眺め続けたことがある。
数値だけ見ればただのグラフなんだけど、僕にはいつも
「このカーブの先には、誰かの不安とか安心とか、いろんな感情がくっついているんだろうな」と見えていた。
そういう経験の積み重ねから、僕は今でも迷わずこう言える。
家庭の防災は、“何を買うか”より前に「電力戦略」を決めるところから始めるべきだ。
家庭に必要なバッテリー容量の基準は「家族人数 × 10,000mAh」

モバイルバッテリーの相談を受けるとき、よく「何mAhあれば安心ですか?」と聞かれる。
僕なりの答えはシンプルで、「家族の人数 × 10,000mAh」を一つの基準にしてほしい、というものだ。
一般家庭に一番フィットしやすい容量帯は、20,000〜30,000mAh。
スマホを約3〜4回フル充電できるので、1〜2日規模の停電でも
「通信が完全に死なない家」を現実的なコストで作れる。
容量の目安(桐谷式)
- 1人暮らし:10,000〜20,000mAh(持ち歩きやすさ重視)
- 2〜3人家庭:20,000〜30,000mAh(汎用性と安心感のベストバランス)
- 4人以上:30,000mAh+小型を1台追加(分散して持てる構成)
この基準は、僕が見てきた各社の推奨値や防災ガイドラインともだいたい重なる。
正直なところ、「不安に対して、容量が多すぎて困ることはほぼない」。
むしろ、「ちょっとケチったせいで足りなかった」と後悔する未来の方を、僕は避けてほしいと思っている。
安全性の基準:PSEマーク・急速充電(PD)・セル品質

モバイルバッテリーは、スペック表だけ見るとどれも似て見えるかもしれない。
でも、安全性に関しては「安物買いは本当に危険」だと、現場を見てきた側としては強めに言いたい。
バッテリー選びで絶対に外したくないポイント
- PSEマーク:国内の電気安全基準。これがない製品は選択肢から外していい。
- 急速充電(USB PD)対応:停電時、短時間でどこまで回復できるかを左右する。
- 信頼できるメーカーのセル:長く使うほど、この差が“安心感の差”になる。
PD対応については、僕はよく
「30分で40〜50%まで戻せるかどうかが勝負」と話している。
災害時にコンセントを使えるタイミングは短く、予測できない。
その短いチャンスで、一気に復活させられるかどうかは、想像以上に大きい差になる。
家庭の電源は“3段構え”にすると圧倒的に強くなる
モバイルバッテリーを1台持っているだけでも、“何もない家”よりはずっと強い。
でも本音を言うと、長期停電を見据えるなら、僕は「3段構え」をおすすめしたい。
3段構えの電源システム(僕が実際にやっている構成)
- モバイルバッテリー:日常兼用で、すぐに使える一次電源
- 車載USB充電:ガソリンが残っている限り頼れる“第二発電所”
- ソーラーチャージャー / ポータブル電源:電気を“生み出せる”最後の砦
車がある家庭なら、12Vソケット+USB充電は本当に心強い。
実際、僕も停電シミュレーションのときは、車を「でかいモバイルバッテリー」として扱っている。
ただし、密閉空間や車庫でエンジンをかけっぱなしにするのは絶対にNG。
命を守るための運用が、逆に危険になっては意味がないからだ。
折りたたみ式ソーラーパネルや小型ポータブル電源に関しては、
「ここまでするのはやりすぎかな?」と最初は僕自身も思っていた。
でも一度「あ、今日は曇りだけど、ちゃんと発電してるな」という体験をしてしまうと、
あの小さなパネルが“心理的なお守り”になる感覚がわかってくる。
停電が起きた直後に必ずやる「節電設定」

そして最後に、これは声を大にして伝えたい。
どれだけ電源を用意しても、設定ひとつでその価値は半減もするし、倍増もするということだ。
僕が停電テストのたびに感じていたのは、
「人は減るスピードには鈍感だけど、増える工夫にはすぐ慣れる」ということ。
だからこそ、停電直後の数分で“減らさない工夫”を入れてしまうのが重要だ。
停電直後に必ずONにしてほしい設定(僕のルール)
- 低電力モード(iPhone / Android 共通)
- 画面輝度40%以下(体感的には「ちょっと暗いかな」くらい)
- Wi-Fi・Bluetoothをオフ(もう動かないルーターを探させない)
- バックグラウンド更新の停止(見えないところでの通信を止める)
- 位置情報は「常にオン」ではなく「必要時のみ」に変更
これだけで、スマホのバッテリー持ちは体感でも1.5〜2倍変わる。
僕はいつも、バッテリー残量を「行動できる時間の残りHP」だとイメージしている。
HPを守るゲームは、早く始めた方が必ず有利だ。
第二の柱:通信戦略 ― 格安SIMで“つながる回線”を複線化する

電源の次に守るべきなのが「通信」だ。
バッテリーが100%でも、回線が死んでいればニュースも地図もメッセージも届かない。
どれだけ電源を積み上げても、“つながるルート”が1本しかなければ、そこが折れた瞬間すべて終わる。
僕がこれまで被災地の通信状況を追いかけて、公式レポートや障害ログを何度も読み込んできて、
そして現場の話を直接聞きながら、最終的に腹の底から思うようになったのはただ一つ。
「どのキャリアも完璧ではないが、“一本勝負”はもっと危険だ」という、すごくシンプルで、でも重たい事実だ。
正直に言うと、昔の僕は今とは真逆だった。
「大手キャリアを1本持っていれば、まあ何とかなるでしょ」と、どこかで楽観していた。
でも、大規模障害のログを追いかけたり、「あのエリアだけ丸ごと圏外だったんだよね」といった現場の声を聞いたりするうちに、
「1本だけに人生を預けるのは、ギャンブルとしてはリスクが高すぎる」と、さすがに考え方を変えざるを得なかった。
だから今の僕は、友人から相談されたら迷わずこう言う。
「回線は、“本命”と“保険”の2本持ちがちょうどいいよ」と。
これは理屈というより、データと現場を見続けてきた結果の“腹の声”に近い。
なぜ予備SIMが「災害の生命線」になるのか

災害時、特定のキャリアだけが極端に混雑したり、基地局障害のダメージをもろに受けたりするケースは珍しくない。
実際の災害レポートにも、
「A社はほぼつながらないがB社は生きていた」「エリアによって回線状況が真逆だった」
といった記述が、イヤになるほど何度も出てくる。
ログを追っていると、同じ時間・同じ市内なのに、
「キャリアが違うだけで、情報世界がまるで別物」という瞬間がある。
そのグラフを見ながら、正直、背筋がゾワッとしたこともある。
だから僕は、スマホや回線の相談を受けたときに、ほぼ反射的にこう答えている。
「回線は1本ではなく、2本持っておいた方がいい」と。
1本目が“いつもの生活用”、2本目が“もしものときの保険”。
この2本目に、格安SIMの予備回線は本当に相性がいい。
月額300〜500円前後で「途絶えない可能性」を一枚足せるなら、
僕はそれを“通信保険の掛け金”として、かなり安い部類だと本気で思っている。
家庭で最適な“予備SIM”の選び方

予備SIM選びでいちばん大事なのは、実は料金プランでも速度でもない。
僕がいつも口を酸っぱくして伝えているのは、
「メイン回線とは違うキャリアを選ぶこと」だ。
ここだけは、妥協してほしくない“芯”の部分だと思っている。
キャリア分散の例(僕がよく提案しているパターン)
- メイン:ドコモ系 → 予備:au系 or ソフトバンク系
- メイン:au系 → 予備:ドコモ系 or ソフトバンク系
- メイン:ソフトバンク系 → 予備:ドコモ系 or au系
これをしておくだけで、「全キャリア同時ダウン」レベルの事態でもない限り、
どちらか一方は生きている確率がグッと上がる。
実際、僕が確認してきた障害ログでも、
「Aはほぼ全滅だけど、Bは遅いながらも生きていた」というケースは本当に多い。
予備回線としては、月額300〜500円ほどのデータ専用SIMで十分だ。
普段はほとんど存在を忘れていてもいい。
ただ、いざという瞬間にだけ鋭く牙をむいてくれる、“隠し刀のような回線”として持っておくイメージだ。
最近は、物理SIMだけでなくeSIMで予備回線を組む人も増えている。
eSIMなら、カードの抜き差しなしで数分で回線切り替えができる。
僕自身、複数のeSIMプロファイルを入れて「今はA社、状況を見てB社へ」といった運用をあえて日常から試しているけれど、
この“逃げ道を持っている感覚”は、一度体験するとちょっと手放しづらい。
災害前に“必ずやっておくべき”予備SIMの準備

予備SIMを契約して、それだけで安心してしまう人も多い。
でも僕の感覚では、
「入っているだけで設定されていないSIM」は、存在していないのとほぼ同じだ。
いざというときに動かないSIMほど、虚しいものはない。
だからこそ、次の3ステップだけは“セットで”必ずやっておいてほしい。
これは僕が自分の家でも、相談を受けた友人宅でも、
「ここまでは最低ライン」としてお願いしている内容だ。
- プロファイルのインストール
各社の案内通りにAPN設定・プロファイルを入れておく。
「あとでやろう」は、だいたい「一生やらない」に変わる──これは僕の経験則でもある。
だからこそ、契約したその日に“セットアップまで”やり切るのがおすすめ。 - データ通信の切り替え練習
「設定 → モバイルネットワーク」から、
メイン → 予備SIMへ切り替える手順を一度やっておく。
初めて触るメニューは、平常時に“怖くないうちに触っておく”のが鉄則だ。
本番のときに初見の画面をいじるのは、想像以上にストレスが大きい。 - 家族にも“予備回線がある”ことを共有
自分が不在のときでも、誰かが切り替えできる状態にしておく。
「パパしかやり方を知らない」「スマホに詳しい長男だけが分かっている」──
こういう状態は、災害時には“家族の弱点”に変わると僕は思っている。
たったこれだけで、「メイン回線が死んでいるのに、誰も切り替えられない」
という、いちばん避けたいパターンをかなり高い確率で潰せる。
僕としては、契約という“紙の上の準備”よりも、
ここまでやって初めて「予備回線を持った」と胸を張って言えると思っている。
格安SIMは災害時に弱い? よくある誤解

「格安SIMって、災害のときは真っ先にダメになるんじゃない?」
これはイベントや相談会で、もう耳にタコができるくらい聞いてきた質問だ。
そのたびに僕は、ちょっとだけ息を吸ってから、いつもの答えを返す。
「状況によるけど、“一概にはそうとは言えない”よ」と。
確かに、格安SIMは大手キャリアと比べて混雑時間帯に速度が落ちやすい。
これは仕組み上そうなりやすいので、デメリットとしてちゃんと認識しておいた方がいい。
ただ、災害時に本当に必要なのは、
「フルスピードで動画が見られるかどうか」ではなく、「最低限のテキスト通信が生きているかどうか」だ。
SNSで文字中心のやり取りをしたり、テキスト主体のニュースを確認したりする程度であれば、
“速度が落ちていても十分使える”ケースは、僕の体感でも決して少なくない。
僕がどうしても伝えたいのは、
「格安SIMだから弱い」のではなく、「1回線しかないほうが圧倒的に弱い」ということ。
大事なのは、ブランドや料金表の“格”ではなく、
「いざという時の逃げ道が、ちゃんと用意されているかどうか」だと、僕は本気で思っている。
第三の柱:設定戦略 ― テザリングを“家庭の非常用Wi-Fi”にする
電源と予備回線が整ったら、最後の仕上げは「どう家族で使うか」だ。
ここで主役になるのが、スマホのテザリング(インターネット共有)。
テザリングをきちんと使いこなせる家は、停電時でも“家の中にWi-Fiを復活させられる家”になる。
僕自身、「停電中なのにPCから普通にネットが見られる」という状況を初めて体験したとき、
正直ちょっと鳥肌が立った。
「ああ、テザリングって、非常時にこそ真価を発揮する機能なんだ」と、そのとき腹の底から理解した。
なぜテザリングは停電時に最強なのか

さっきも触れたように、停電すると真っ先に止まるのは家庭のWi-Fiルーターだ。
でも、スマホのテザリングさえ生きていれば、
スマホ一台がそのまま“臨時ルーター”に変身してくれる。
これは、何度試しても「スマホって、ほんとよくできた道具だな」と感心するポイントだ。
テザリングが災害時に強い理由(使っていて感じること)
- 電源さえあれば、その場を即席のWi-Fiスポットにできる
- 2〜3台程度の接続なら、体感的にも速度は十分実用的
- PC・タブレット・ゲーム機など、家中のデバイスをまとめてネットにつなげる
僕の家でも停電時には、もっともバッテリーに余裕のあるスマホを
「情報収集用テザリング端末」にして、ノートPCや家族のスマホをそこへ集約している。
「家全体が一気にオフラインになる」のではなく、
「一本のスマホから、細くてもインターネットの糸が伸びている」というだけで、安心感がまるで違う。
この心理的な差は、やってみると本当に大きい。
テザリングで気になる「バッテリー消費」のリアル

「テザリングって電池を食うんでしょ?」という質問も、正直もう何十回と聞いてきた。
たぶん、僕の耳が覚えている質問ランキングTOP3には入っている。
正直なところ、“普通に使うよりは確かに減る”。ここはごまかさない。
ただ、僕が実測してきた感覚で言うと──
テザリングのバッテリー消費(桐谷の実測目安)
- テキスト中心の利用:1時間あたり 約5〜10%
- Web閲覧+軽いSNS:1時間あたり 約10〜15%
- 動画視聴・大容量通信:一気に消費(災害時は基本NG)
この数字を見て、僕自身がずっと感じているのは、
「ちゃんと運転すれば、そこまで怖がる必要はない」ということだ。
重要なのは、「ONにする時間」と「接続台数」をこちらの意思でコントロールすること。
車のエンジンと同じで、つけっぱなしにすればガソリンは減るし、
必要なときだけ回せば、意外と長く走ってくれる。
家族を守る“テザリング運用ルール”を決めておく

テザリングは本当に頼れる機能だけれど、ノールールで使うとすぐにバッテリーが干上がる。
なので、僕の家ではあらかじめ「テザリング運用ルール」を決めている。
大げさな防災マニュアルではなく、「これだけは守ろう」という家族内の“約束ごと”だ。
わが家のテザリング運用ルール
- テザリング担当のスマホを1台決める
└ もっともバッテリーに余裕のある端末を“母艦”にする。 - 接続台数は2〜3台まで
└ PC1台+スマホ1〜2台を目安にして、それ以上はつながない。 - 動画・大容量通信は原則禁止
└ 見たくなる気持ちは痛いほどわかるけれど、「命のほうが大事だよね」と全員で共有しておく。 - 使わないときは必ずOFFにする
└ 「なんとなくつけっぱなし」をゼロにするだけで、バッテリーの減り方は別物になる。
この4つを決めてから、テザリングに対する僕の印象は、
「バッテリーを食う危険な機能」から、「家族をつなぐ、頼れる非常用Wi-Fi」へと完全に変わった。
ルールは少ないほど守られやすい。だからこそ、これくらいのシンプルさがちょうどいいと感じている。
災害時につながりやすくする“通信テクニック”

そして最後に、これはどの家にもぜひ共有してほしいポイント。
アプリや機能の使い方を少し変えるだけで、「つながりやすさ」は確実に変わるということだ。
僕はこれを「通信の節約術」というより、ちょっと大げさに言えば
「電波との付き合い方のマナー」だと思っている。
災害時の通信テクニック(僕が家族と共有していること)
- 通話よりSMSを優先
└ 音声通話よりも回線負荷が軽く、結果としてつながりやすい。 - メッセージは短く・テキスト中心で送る
└ 「無事」「今○○にいる」「あとで連絡する」くらいの短さで十分。 - 写真・動画の送信は本当に必要なときだけ
└ 気持ちを伝えたくて写真を送りたくなるけれど、その1枚が誰かの帯域を圧迫することもある。 - クラウド同期や自動バックアップは一時停止
└ 見えない裏側で大量のデータを流さないよう、一度スイッチを切る。
災害時は、「ちゃんとつながるかどうか」を完全にコントロールすることはできない。
でも、「少しでもつながりやすい方法を自分から選ぶ」ことはできる。
その小さな選択の積み重ねが、結果的に自分と、まわりの誰かの命綱を少しずつ太くしていく──
僕はそう信じて、この通信戦略をずっと発信し続けている。
初心者でもできる“つながる家づくり”チェックリスト

ここまで読んでくれたあなたなら、きっともう、頭の中にうっすらと
「スマホが死なない家」の輪郭が浮かび始めているはずだ。
でも、防災というのは不思議で、
“知った瞬間に安心できるもの”ではなく、
「知ってから動いた時」に初めて安心が生まれる──僕は現場で何度もそう実感してきた。
メーカー時代、災害対策プロジェクトで何十軒もの家庭に伺い、停電時の行動ログをとっていたとき、
胸に刺さったのは一つの共通点だった。
準備していた家庭ほど、停電直後の“沈黙の時間”が短い。
電気がスッと落ちた瞬間、
「次に何をするか」が身体に入っている家は、不思議なくらい落ち着いていた。
逆に、準備していない家は、まず“考えるところから始まる”。
暗闇の中で考えるという行為は、想像以上に人の平常心を奪う。
そのギャップを、僕は直接見てしまった。
だからこの章では、僕が講座や家庭向けコンサルで実際に使っている、
「今日から5分でできるチェックリスト」をそのまま共有する。
全部をやる必要はない。むしろ、ひとつでいい。
ひとつ動いた瞬間から、あなたの家の“防災力”は昨日より確実に上がる。
これは、机上の空論ではなく、僕自身の経験から出てきた実感だ。
停電前の準備(できれば“今日”やること)

- Googleマップのオフライン地図を保存
└ 自宅・職場・子どもの学校・避難所など、生活圏をまるごと保存。
僕も初めて保存したとき、「あ、これで“地図が白紙になる恐怖”から一段階自由になれた」と思った。 - モバイルバッテリーを満充電にしておく
└ “80%でいいや”と油断すると、その20%が停電時には致命傷になる。
満充電のモバイルバッテリーが家にあるだけで、精神的にかなり救われる。 - 避難所の位置をお気に入り登録
└ パニック時に「探す」という行為は、思っている以上に難しい。
★をつけておくだけで、未来の自分の負担を大幅に減らせる。 - 予備SIM(別キャリア)の動作確認
└ 回線は“入れてあるだけ”では意味がない。実際につながることが大事。
僕は使う前に必ず一度、回線切り替えの練習をしてもらっている。 - 家族と「連絡方法」「集合場所」を共有
└ 家族会議はちょっと気恥ずかしいけれど、これを話しておくだけで不安は激減する。
言葉にしない“なんとかなるっしょ”がいちばん危ない。
停電が発生した“直後”にやること

- スマホを低電力モードに切り替え
└ これは「電池の出血を止める」行為。何よりも先にやるべきファーストアクション。
僕自身、この操作は身体が覚えるほど習慣にしている。 - Wi-Fi → モバイル通信へ切り替え
└ ルーターは100%止まる。だからスマホ回線を即メインに切り替える。
“死んだWi-Fiを探し続けるスマホ”ほど、無駄に電池を浪費するものはない。 - 必要ならテザリングをON(家族用)
└ 情報収集端末を1台決めて、そこに家族の端末をつなぐ。
“誰のスマホにつなぐ?”問題を事前に決めておくだけで、停電直後の混乱がごっそり消える。 - 無駄なアプリ更新・通知を停止
└ 見えないところで勝手に通信しているアプリは、停電時に大敵。
通知を切っただけでバッテリーの減り方が変わるのを、僕は嫌と言うほど見てきた。
停電が長期化したときの運用

- 電源の優先順位を明確にする
└ 僕の家では「情報収集端末 > 連絡用 > 娯楽」は鉄のルール。
誰かが自由に使い始めた瞬間、家の電力戦略は崩れる。 - SMS中心の軽量な連絡に切り替え
└ 音声通話は“通ればラッキー”。SMSは“届きやすい”。
僕は家族に「迷ったらSMSの短文だけ送って」と伝えている。 - モバイルバッテリーや車載充電でこまめに補充
└ バッテリーは“守る”より“回復させ続ける”方が確実。
40〜70%を行き来するイメージで運用すると、長期戦に強くなる。 - 本当に必要な情報だけを見る
└ ニュース・避難情報・天気だけに絞る。
僕は災害時、情報を追いすぎて不安が倍増した経験がある。
必要最低限にするだけで、心のエネルギーが見違えるほど保てる。
このチェックリストは、冷蔵庫の扉や玄関の壁など、
家族全員が“なんとなく目に入る場所”に貼っておくのが最強だ。
停電が起きた瞬間、人は思った以上に冷静さを失う。
でも、紙に書かれた5行のリストは、不思議と僕たちの心を引き戻してくれる。
現場でも、自宅でも、僕はその効果をいやというほど見てきた。
災害は選べない。でも、備えは選べる。
今スマホを置いて、たった5分だけ“未来のあなたのため”に時間を使う。
その小さな行動が、静かに、けれど確実に、あなたと大切な人の未来を守る力になる。
僕はそれを信じて、このチェックリストを書いている。
FAQ(よくある質問)

Q1:停電中でもWi-Fiは使えますか?
これは本当に友人から一番聞かれる質問。
答えはシンプルで、そして残酷で、「ほぼ使えない」と思っておいてほしい。
僕がメーカーにいた頃、停電テストを季節が変わるくらい回し続けていた時期があるんだけど、
Wi-FiルーターとONUが停電に耐えた例なんて、一度も見たことがない。
電源が落ちた瞬間に、必ず落ちる機器なんだ。構造的にどうしようもない。
だから停電したら、迷わずスマホのモバイル通信+テザリングへ切り替えるのがベスト。
僕の家が停電したとき、スマホ1台を“臨時Wi-Fi”化してPCや家族のスマホをつないだ瞬間、
「うわ、情報ってこんなに心を落ち着かせるんだ…」と体の震えがすっと引いた。
あれは忘れられない感覚だ。
Q2:オフライン地図はどれくらいの容量が必要?
これは全国の災害取材でも避難訓練でも、毎回Googleマップをいじり倒してきた僕の結論なんだけど、
生活圏だけなら100〜300MBで十分。
自宅、職場、学校、避難所、よく行くスーパー…。
“自分の半径数kmの世界”は意外とコンパクトに収まる。
ただし、古いスマホは本当にストレージがギリギリのことが多いから、
保存前に空き容量チェックは絶対にしてほしい。
「地図を保存したつもりが、実はできていなかった」は命に関わる。
Q3:モバイルバッテリーはどれを選べば安全?
友人からは「で、結局どれ?」と何十回も聞かれてきたけど、僕が最初に伝えるのはいつも同じ。
PSEマークがないモバイルバッテリーは絶対に買わないで。
メーカー時代、バッテリーの安全試験にも関わっていて、
マージンのない電池がどれほど危険か、目の前で何度も思い知らされた。
発火テストの熱と臭いは、いまだに記憶の奥に残っている。
家庭向けなら、
20,000mAh以上+急速充電(PD対応)
これが停電に強い“黄金セット”。
PD対応は本当に威力が違う。「30分でどれだけ戻せるか」は、災害時だとほぼ生存時間に等しい。
Q4:予備SIMはどの会社を選ぶべき?
ここはほぼ全員が勘違いしているポイントで、
料金よりなにより大事なのは、
「メインとは違うキャリアを持つこと」なんだ。
被災地の通信ログを追いかけていると、キャリアごとの生存率がまったく違うことがわかる。
僕も取材中に何度も経験した。
「ドコモ全滅だけど、ソフトバンクは生きてる」
「auだけ混雑してるけど、楽天は細くつながる」
なんてことが普通に起きる。
だから、月300〜500円で維持できる予備SIMは、
“もう1本の命綱”として本当にコスパがいい。
Q5:テザリングは電池をどれくらい消費しますか?
これは僕が停電時に自宅で実測したデータと、メーカー時代の検証ログを合わせた数字なんだけど、
1時間で5〜15%が現実的なライン。
もちろん動画や大容量通信をすれば爆速で減る。
でも、ニュース確認やSNSのテキスト程度ならそこまで心配しなくていい。
大事なのはこの2つだけ。
・必要なときだけON
・接続は2〜3台まで
これを守るだけで、バッテリーの持ちは本当に別物になる。
僕自身、ルール化してから「テザリング=電池食い」という恐怖感は完全に消えた。
僕の元には日常的にいろんな質問が届くけれど、
どの質問にも共通して言える答えがひとつある。
知識より、準備があなたを守る。
このあと続く“まとめ”は、その準備を今日のあなたが確実に始められるように書いた、最後の後押しだ。
関連記事
もし今すぐ停電したら?スマホ充電・ネット回線・地図が“途切れない家”の作り方
まとめ:災害は“突然”でも、備えは“今日”できる

停電は、本当にこちらの都合なんて一切考えてくれない。
メーカー時代、何百時間と停電試験を回してきた僕でさえ、
自宅で深夜に電気が落ちた瞬間は、心臓が一瞬きゅっと縮まった。
あの不意打ちの静寂は、いつだって「前触れゼロ」でやってくる。
そして同時に、僕は何度も突き付けられてきた。
“その一瞬に残る情報量は、事前の準備量で決まる”という冷たい現実を。
電源。通信。地図。
この3つを家として持っておくと、スマホは“連絡用の箱”ではなく、
停電の闇を切り裂く「判断力そのもの」になる。
実際、僕の家が停電した夜、
テザリングでPCをつないでニュースが読めた瞬間、
胸の奥がすっと軽くなるのを感じた。
「備えておいて、本当に良かった」
心からそう思えた。
あれは道具ではなく、未来の自分がそっと渡してくれた“生存のメッセージ”だった。
だから僕はいつも言う。
ガジェットの準備は単なる“モノ集め”じゃない。
それは、未来の自分への手紙であり、
家族の不安を一つ減らすための優しさであり、
暮らしそのものを静かに底上げしていく「生活のアップデート」なんだと。
災害対策って、本当はもっと“生活に寄り添った行為”でいい。
今日からできる最重要アクション3つ(僕自身も続けているもの)
- Googleマップのオフライン地図を保存
└ 道が見えるだけで、恐怖は本当に半分になる。僕も最初は衝撃を受けた。 - モバイルバッテリーを満充電にしておく
└ “100%の数字”は、そのまま“心の安定度”になる。これはもう体験として断言できる。 - 家族と連絡方法と集合場所を共有
└ 情報の足並みが揃っているだけで、停電中の不安は驚くほど軽くなる。
停電の数時間を、ただ復旧を待つだけの“耐える時間”にしないでほしい。
あの時間は、本来ならあなたが自分の未来を守れる、とても能動的な時間だ。
今日のたった5分の準備が、
いつかあなたを、そしてあなたの大切な人を救う。
僕はその瞬間を、現場でも、自宅でも、何度も見てきた。
だからこそ今、あなたが動ける「今日」という日には、ものすごい価値がある。
情報ソース・参考リンク(一次情報・権威メディア)
※本文では直接リンクとして記載済みのものも含みます。
- Android 公式:
オフラインマップの使い方と災害対策
- Yahoo! 防災マップ(公式ブログ):
危険情報と防災モードの案内
- Yahoo! MAP 防災モード(公式ヘルプ):
防災モードの使い方
- 国土地理院(国交省):
ハザードマップポータルサイト
- 総務省:
災害時の通信確保に関する政策情報
- 消防庁(災害・防災情報):
消防庁 公式サイト
- 政府防災情報(内閣府):
内閣府 防災情報ポータル
- 防災専門家の解説(note):
通信障害と停電の関係性(専門解説)
本記事は、Android公式の災害対策ガイド、Yahoo! MAPの防災モード、国土地理院ハザードマップポータル、総務省・消防庁の公的資料、政府の防災情報、さらに防災専門家の解説(note)など、信頼性の高い一次情報を参照して構成しています。特に災害時の通信確保、地図のオフライン利用、家庭での電源管理については、公式機関が繰り返し強調している内容であり、本記事ではそれらを一般家庭向けに「電源・通信・地図」の三本柱として再整理しました。これらの情報に基づき、読者が実践可能な停電対策として体系的に解説しています。


コメント